人工股関節について

人工股関節とは

人工股関節はカップ、ライナー、骨頭ボール、ステムで構成されています。
臼蓋(骨盤にある窪み)側には金属製のカップが入り、カップの内側に軟骨の代わりとなるポリエチレンなどでできたライナーをはめます。大腿骨側には金属製のステムを挿入し、ステムの先端にボールがはまります。

人工股関節

最小侵襲手術(MIS)とは

最小侵襲手術(MIS)は患者さんのからだを傷つける範囲を最小にとどめる手術を意味します。

英語で【Minimally Invasive Surgery】というため、頭文字をとってMIS(エムアイエス)とよく呼ばれます。この最小侵襲手術(MIS)で手術を行うことで、手術後の痛みが少なくリハビリが早いです。しかも、脱臼などの心配がないため運動や生活が自由にできるという利点があります。

「皮膚を切る長さが短いだけのMIS」と「筋肉も切らないMIS」

従来の人工関節の手術では、皮膚とその下にある筋肉にも大きくメスを入れます。

最近、皮膚を切る長さを8cm程度の短い切開にしただけで、MISと呼ばれていることもあります。当院では、皮膚を切る長さが短いだけでなく、筋肉を切らないアプローチをとっており、それを真のMISと考えています。

手術のアプローチ

「MISではない手術」では筋肉を切っているのに対し、「真のMIS手術」では何故、筋肉を切らないで手術を行うことができるのでしょうか。

股関節はさまざまな筋肉に覆われている関節であり、どの筋肉の間から手術をおこなうかを手術アプローチといいます。手術のアプローチによっては、筋肉を切らないと股関節まで到達できないもの、切らないでも筋肉の隙間を分けるだけで手術できるものがあります。

股関節のやや後ろ側を切る後方アプローチや、横側を切る側方アプローチでは大きな筋肉を切開しないと股関節に到達できません。そのため、後方アプローチや側方アプローチは、いくら皮膚を切る長さを短くしても、「真のMIS」にはならないのです。股関節の横から斜め前に切る前外側アプローチや、前側を切る前方アプローチは筋肉の隙間から手術をする方法で「真のMIS」と言えます。

人工股関節手術の70%以上で最も多く用いられている後方アプローチは、大殿筋という非常に大きい筋肉を縦に切ります。そして大殿筋より深いところにある短外旋筋群という複数の筋肉を切離しておこなわれます。後方アプローチ後の人工関節は回復に時間がかかり、また術後に深く曲げると脱臼する危険性が高いです。

人工股関節

当院のアプローチ(仰臥位前外側アプローチ)

当院では、仰臥位前外側アプローチを用いて手術をおこなっております。この方法は中殿筋と大腿筋膜張筋という筋肉の間から股関節を手術する方法です。筋肉切らない「真のMIS」です。7~10cmの小さな創で手術が可能ですが、創のみを小さくするための手術ではなく、体形や変形に応じて筋肉を温存するために創を延長することもあります。

多くの病院では手術野が良く見えるため、患者様の体を横向きにして行う側臥位手術が行われております。当院では、仰臥位といって普通に上向きに寝たままで手術をおこなっております。この方法のメリットは、骨盤を直接触って確認することができるため、正確に手術中に知ることできることや、左右の足の長さを確認しながら手術を行うことができる点です。

一歩進んだMIS

股関節の周りには関節包と言って、非常に丈夫な組織が覆っています。従来は、この関節包を切除して人工股関節を入れてきていました。私たちは、関節包を一部だけ切って、手術後にもう一度縫い閉じてくるやり方を行うようにしています。関節包を温存することで、手術の難易度は上がりますが、出血が少なくなることや、股関節が安定してさらに脱臼しにくくなると考えられています。

人工股関節
人工股関節

MISのメリット デメリット

MISで、人工股関節の手術を行うと、多くのメリットがあります。一番のメリットは、痛みが少ないことでしょう。手術後の痛みが少ないため、リハビリが早く進み、入院期間も短く済みます。ご高齢の方や、体力を既に落とされている方に手術しても、リハビリで回復することができます。

また、股関節周りの筋肉や関節包を温存するので、股関節が安定して脱臼しづらいこともメリットです。当院では、正座や胡坐はもちろん、和式トイレなどの深く曲げる動作も全て行っていただいています。後方アプローチなどのように筋肉を切ると、股関節が不安定になりやすいため、脱臼しないために脚を伸ばす必要があります。MISでは、脚を伸ばさなくても安定するため、左右の足の長さの差が生じにくいです。他にも、出血が少なく、輸血や自己血の必要がないなどのメリットもあります。

逆にデメリットは、手術が難しいことです。筋肉を切らないため手術をする部分が見えづらく、手術器具の出し入れも難しいです。
そのため、できる医師が限られていて、だれでもできるわけでは無いことがデメリットです。